「何がしたかったのか、自分でもよく分からない。きっと魚と自分を重ねていたんだと思う。住む場所を選べない、無力な存在の末路を見ることで、ああなるまいって」

私は当時の湊に気持ちを寄せてみる。
不自由な無力な存在。

「湊は、何を望んでいたの?」

「さぁ?ガキの頃の自分の考えなんてよく分からんって。ただ」

「ただ?」

「変わることを望んでいたのかもしれない、な」

「結末が変わることを?」

儚く笑う湊は目を細めて、ここではないどこか遠くに思いを馳せる。
それはきっと私では想像できないここではないどこか。

湊は、本当に〝自由〟だろうか?

ふと、彼は誰よりも不自由なのではないかとそう思った。

そう思ったら湊が消えてしまいそうな気がして、どうしようもなく寂しくなった。

私は手を伸ばして湊を抱きしめる。
どうしてだかわからない。
でも、そうしなければいけないような気がした。
私に抱きしめられた湊は抵抗しなかった。
言葉がなくなり、沈黙が訪れた。
それはとても心地の良い沈黙だった。

「ごめん、な」

不意に湊がそういった。

「何が?」

そう聞いたけれど、湊は少しだけ泣きそうな顔をしただけで、何も言わなかった。そう見えたのは、暗かったせいかもしれない。
私はそれ以上何も聞けなくなった。
何を聞きたいのか、何を言いたいのか、自分でも分からず、ただ湊に歌をせがんだ。
忘れてしまわないように、じっとその歌に聞き入った。