《キャラバト》白衣の保険医と黒い翼


「いっつ…」

肩を打ったのか、よろけながら肩を支える。

「えぇっと…?」

きょろきょろと回りを見渡し、状況を確認する。

夜、である。

辺りは木々に覆われていて、悲しくなるぐらい無音。
己の息づかい、それにたまにふく風の音しかしない。

「…ぅ…」

土にまぎれた、血のにおい。
あまり朱祢が好きではないにおいに、鼻をしかめた。

「なんだここ…日本、だよな?空気重すぎんだろ」

息をするのもいやなぐらいに空気が重い。
べっとりと肌につくような、気持ちの悪さ。


「んっ…?」

ザム、と葉を踏み潰す音。

闇に紛れて見えなかった姿が、近づいてくる。

「あれ?若いお姉さんだ」

「……」

空気に相応しくない、軽い声。
こちらを伺うようにして近づいてくる。

ただの人間か、と警戒心を弱めた。

「ねぇねぇ一人?」

「…そこの君さぁ、ナンパもいいけど帰んなさい。
おねーさま教師だから、規則にはきびしーよ?」