《キャラバト》白衣の保険医と黒い翼


「へぇー、偉いんだ。ってか、戦うんだ」

「まあなー」


嘘だ。
彼女は戦わない。

「(…ってかなんで誰もこねぇんだよ、鸞とかだありんとかよ)」
彼女は言うなれば事務員のような立場。
長としての鳥たちの管理、神との交友などをする。

別に戦えない訳ではないが、得意とはしていないのだ。

戦闘なら、朱祢の旦那の方が向いている。


「ラスク、あんたさ。他のやつ知らない?」

「他のやつ?誰のことかな」

「私の仲間。ラスクを捕らえようとした、変な婆くさいしゃべり方するやつだよ」

「あぁ…あの女ねぇ」


「…え」

そこでようやく、気がついたのだ。


彼がもつ大きな鎌に。


闇夜にとろけて見えなかったのか、はたまた今取り出したのか――まるで今現れたかのように彼は持っていた。

しかも幅がない。

薄っぺらい、紙みたいな鎌だ。


そして、朱祢は顔をしかめる。


――血の、臭い。


濃厚な、重くて濃い、悪寒が走るような血の臭いが、鎌から漂うようだ。

「いたよ?なんか男つれてたから、魅力を感じなかったんだよね」

「何、それ…」

呆然とした。


日本神話は、世界でもっとも平和な神話だ。


ラスクが持つような、死の匂いが漂う鎌なんて存在しない。

朱祢が怖がるのは当然だった。