彼――「カラカラさん」と、私たち親子が出会ったのは、秋めいて涼しくなってきた、ある晴れた日のことだった。


その日は水曜日で、息子の颯太(そうた)と一緒に、近くの公園に出かけ、ビニールシートを広げてお弁当を食べることにしていた。颯太の保育園は、水曜日は午前保育で、給食が出ないという特殊な所だった。私は、夫と離婚したばかりで、生活していくために、引き取った颯太を保育園に預けて、出産を機に辞めた仕事を始めた。毎日が忙しかったが、水曜日には休みを取って、颯太と過ごすことにしていた。


そして、あの日は颯太のおねだりで、ピクニックごっこと称して、お昼に手をかけてお弁当を作り、公園で食べることにしていたのだった。


「ママ、卵焼き!」


颯太は四歳になって、だいぶ言葉も覚え、反抗もするようになっていたが、その日ばかりは甘えた様子を見せてきた。私はそんな颯太が可愛くて、颯太の言うままに、卵焼きを箸でつまんで、小さな口に入れてやった。


「美味しい?」


そう尋ねると、颯太は顔一杯に笑顔を浮かべて、大きく二回うなずいた。本心から気に入っているときは、二回うなずくのが、颯太の癖だった。


確か、その時のお弁当には、おにぎりと、卵焼きと、ウィンナー、つくねの照り焼きが入っていたように思う。確か、というのは、はっきり覚えているおかずが、唐揚げだけだからである。私が作る唐揚げは、颯太の大好物で、二度揚げするのが美味しさのポイントだ。そうすることで、多少黒みが強くなるが、うまみが凝縮されるのだ。


「ママ、唐揚げ!」


二度目のリクエストに応え、唐揚げを颯太に食べさせると、颯太はにこにこ笑いながら、木の葉のように小さな手のひらを私の前に突き出した。


「10点満点!」


いつの間にそんな言葉を覚えたのだろう。保育園に通わせると、いろいろな言葉やしぐさを覚えて成長するので、見ていて楽しい。責任は重大で、お金はないが、私は颯太を引き取ることができたのを嬉しく思った。