それでも高槻くんは、黙ったままセミの合唱の下を通り、電車に乗って、わたしを自宅まで送り届けてくれた。 「あ、ありがとう」 お礼を言う必要なんてきっとない。 だけどわたしの口からは送ってもらったことへの感謝の言葉が漏れてしまう。 「それじゃあ」 ぶっきらぼうな声とともに背中を見せたと思ったら、高槻くんは振り返った。 「明日からは、朝の迎えは、やめるから」 「え」 「じゃあ」 一瞬だけわたしの目を見て、細長い背中は日暮れの通りを歩き出した。