「へいき。歩いてればすぐ乾く」
「でも」
「大丈夫だから」
横目で見下ろされて、息がつまった。
大きな目がなんだかとても優しくて、頬が一気に熱を持つ。
ふたりきりで並んで下校しているという状況に、突然気持ちが焦りはじめた。
緊張のあまり、口が勝手に回りだす。
「で、でも、どうして制服のままプール入ったの? あ、今日暑かったから、無性に泳ぎたくなっちゃったとか」
不自然な笑いを浮かべるわたしに、彼は淡々と答える。
「俺、泳げない」
「えっ」
高槻くんはバツが悪そうに濡れた髪を触った。
顔もスタイルも運動神経だって抜群の彼が、まさかカナヅチだったなんて。
高槻くんのことならなんでも知っているような気がしていたけれど、盲点だった。
クラスが違えば、当然プールの授業をのぞき見することもできない。
「それなら、どうしてプールに飛び込んだの?」


