それでもキミをあきらめない




「……な、なに?」
 

うつむいたままでいると、高槻くんの平坦な声が答える。


「一緒に帰ろうと思って、待ってた」
 

思わず顔を上げる。
 
その瞬間、目に入った顔に、わたしはぎょっとした。


「ど、どうしたの、そのカッコ」
 

高槻くんは前髪から水を滴らせていた。
 
いや、髪の毛どころか全身がずぶ濡れだった。
 
バケツの水でもかぶったみたいに、セットされていた髪はぺちゃんこで、カッターシャツの下の黒いTシャツが透けている。
 

自分の格好を見下ろして、彼はなんでもないように言う。


「ちょっと、プールに飛び込んだ」

「え、プールって……制服のまま?」
 

こくんと頷いて、「帰ろう」とイチョウ並木へ歩き出す。


「ちゃんと乾かさないと、風邪引いちゃうよ」
 

横を歩きながら声をかけると、彼は前を向いたまま首を振った。