「確かに、あの連中は褒められた性格ではなさそうだ」
教室のドアを見つめて、つまらなそうに言うと、彼女はわたしに目を移す。
その表情は、高槻くんに負けず劣らず、感情が出ない。
「――だけど、高槻礼央だけは、ちがう」
低いつぶやきに、どきっとした。
それは何か、特別な気持ちを予感させる言い方で。
まるで、恋が始まる直前の、くすぐったいような――
「――そう、奈央が言ったんじゃないか」
口元に浮かんだちいさな笑みに、わたしは目を奪われた。
はじめて見た、朝子の微笑み。
「奈央が好意を抱いた相手なら、信用してもいい」
そう言って、朝子は参考書に視線を落とす。


