「覚えてないかもしんないけど、廊下で、小塚のペンケース拾ったんだよ。そんとき、はじめて気づいた」
身体の震えが止まらない。
地味で暗い女子生徒のペンケースを拾って、たった一度目を合わせただけで、
高槻くんはわたしを、小学生の頃の天真爛漫な少女と結び付けた。
どうして、気が付いたんだろう。
不思議でたまらない。
殻をかぶっていたわたしを、高槻くんはなぜ、見つけることができたの?
「それからいてもたってもいらんなくて、小塚の状況も考えないまま、気がついたら告ってた」
校舎裏に連れて行かれたのは、夏休みが終わったばかりの頃だった。
今でも思い出す。
揺れる木漏れ日と、微妙にあいた、ふたりの距離。
高槻くんと目を合わせるのも、名前を呼ばれるのも、
あのときのわたしにとっては、すべてが奇跡だった。


