「そしたら、前を歩いていた中学生の脚に、思いっきりぶつかった」
低く、優しく、わたしに伝わっていた高槻くんの声が、急に頭の中で真っ白くはじけた。
蹴とばした石。
中学生。
「その男子中学生は虫の居所が悪かったみたいでさ、鬼みたいな形相で振り返って、そんで俺は殴られた」
脳裏によみがえる。
中学の制服を身にまとい、爆弾を抱えた兄が、いきなりキレる様子が。
ちいさな男の子の胸倉をつかんで、殴りつけるシーンが。
「キレ方が尋常じゃなくて、そんときは正直、殺されるって思った」
彼の言葉を聞きながら、握りしめた両手から全身へと、震えが伝染していく。
身体全体が心臓になったみたいに、鼓動がうるさい。
そんなわたしをまっすぐ見つめたまま、高槻くんは表情を変えずに言う。
「そのとき、女の子が飛び出してきて、中学生に向かって叫んだんだ」


