それでもキミをあきらめない




それは以前、聞いたことのある話だ。


高槻くんは、両親の目が遼くんにばかり向くのがつらくて、

消えてしまいたいと思っていた時期があった。


「学校でも家でも寂しくてさ、無性にイラついてて。ほら、そこの通り」


不意に長い指がわたしの後方を差して、どきっとする。

おそるおそる振り返ると、彼の指は、公園に沿って伸びている通りを示していた。


「すげーむしゃくしゃしてて、そこを歩いてるときに、ちょうど転がってた石をけっ飛ばしたんだ」


小さな頃の悪戯を白状するように、伏し目がちに言う。


彼の話に思わず身を乗り出してしまうのは、星野彗と違って普段は口数の少ない高槻くんが、

めずらしくたくさん喋っているから、という理由だけじゃない。