「黙ってたけど、俺、この辺に住んでたんだ……ずっと昔に」
高槻くんの顔には小さな笑みがあった。
すこし困ったように眉を下げた、
なにかの衝撃ですぐに消えてしまいそうな、はかない微笑。
「この辺に、住んでた……?」
ひと言ひと言確かめるように繰り返すわたしに、
彼は「そう」と静かにうなずく。
「俺の親、転勤多くてさ。せっかく学校で友達ができてもすぐ離れ離れになって。それが嫌で嫌で仕方なかった」
高槻くんはちいさなブランコに視線を移した。
立ちこぎをしたり、靴とばしをしたり、わたしが小学生のころに散々遊び倒した青いブランコだ。
「小4でここに越してきたときは、前の学校の友達と仲が良かったから、
よけいにこっちの学校に馴染むのに時間がかかってさ。
なかなか友達もできなくて、毎日つまんねーと思ってた。しかも赤ん坊の弟の世話までさせられて」


