「俺はお前を追い詰めたかったわけじゃないんだよ」
マクラに右頬を押し付けたまま、わたしは左の目だけで翔馬を見上げた。
真剣な表情に、どことなく寂しそうな気配を漂わせて、兄は静かにつぶやいた。
「お前のことが、羨ましかったんだ」
耳を疑った。
今まで見たことも聞いたこともない、翔馬の本心を急に並べられて、戸惑ってしまう。
「弱いものイジメすんなーって俺に突っかかってきたりさぁ、正しいことを正しくやれる強い人間だったのに……」
眉を切なげに下げて、翔馬は悲しそうにわたしを見た。
「お前、よっぽどツラかったんだなぁ」


