それでもキミをあきらめない




彼が大きな声を出すところも、大人の人と敬語で話すところも、これまで見たことがない。


子どもたちが駆け回るフロアの奥から、青いステッチの入った黒いランドセルを抱えた男の子が歩いてくる。


黒いさらさらの髪の毛に、くりくりとした大きな目。


面立ちが、どことなく高槻くんに似ていて、わたしは「年の離れた弟」と言っていた彼の低い声を思い出した。


「遼、具合大丈夫なのか」


ランドセルを取り上げて、高槻くんは男の子の額に手を伸ばす。


「へいきー」


エプロンの女性に「先生さようなら」と挨拶をして、少年は振り返った。

軒先に突っ立ったままのわたしに気が付き、不思議そうに目をまたたく。


つぶらな瞳でわたしと高槻くんを見比べると、ぱっと顔を輝かせた。


「兄ちゃんの、カノジョ」