「わかりました。すぐ行きます」 通話を切り、わたしを振り返る。 どきっとした。 いつも感情を出さない彼が、泣きそうに見えたから。 「高槻くん……?」 「ごめん、一緒に来て」 「え!?」 いきなり右手を掴まれて、わたしは通りを走り出した。 黄緑色のイチョウの葉と、抜けるような空の青と、前を行く高槻くんの艶やかな黒い髪が、わたしの目の中で鮮やかに跳ねる。 「高槻くん?」 広い背中に呼びかけても返事をもらえないまま、わたしは引きずられるようにして駅の改札をくぐった。