ケータイ奴隷

十九時過ぎに、父が帰宅した。

「いや、今日は暑いな」

とランニングとトランクス姿でビールをあけている。イスに座ると三段腹が揺れていた。

服くらい着ろよ、キモイんだよ、という言葉をあたしは喉に留める。少しでも父の怒りを増幅させないようにするためだ。

機嫌よくビールを飲んでいる父に、

「あなた、これ見て」

と母が請求書を渡した。

買い物や掃除などは、だらだらするくせに、こういうこととなったら素早い。

あたしはソファーに座って、父の反応をうかがっていた。

父はぐびりと喉を鳴らして、ビールを飲むと缶を置く。

「……ま、約束を破ったんだから、ケータイは解約だな」

――解約!?

あたしは耳を疑った。だけど、今確かに解約と聞こえた。

「ち、ちょっと、お父さん。ジョーダンでしょ?」

あたしはソファーから立ちあがる。声が震えていた。