ケータイ奴隷

あたしが強く目を閉じたとき、後方からガッチャーンとなにかが割れる音がした。

振り返ると、四、五歳くらいの男の子の足元に割れたマグカップが落ちていた。すると、母親らしき若い女性が慌てたように駆け寄る。

「まあっ、あれだけ商品に触っちゃだめって言ったじゃない!」

母親が怒鳴ると、男の子は目に涙をためて、泣きだした。すごい声だ。

おろおろしたように母親が破片を拾おうとすると、バッグのコーナーにいた店員が走り寄る。

「お客さま、危ないですからそのままにされてください」

そう言うと、ホウキでも取りに行くためか、店の裏へと引っ込んだ。

あたしは、レジに視線をやった。五、六人行列ができていて、店員がうつむいてラッピングしている。

――チャンスだ。

あたしは、貼るだけで全面を簡単にデコれるというタイプのシートを手にすると、そのままポケットにつっこんだ。

そのまま店を走り出ようとしたあたしは、ぎょっとした。

上に監視カメラがあったのだ。今のも撮られていたかもしれない、と思うと足がすくむ。

だけど、新聞紙を手に店員が戻ってきたので、あたしは走って逃げた。もうあの店には二度と行けない、と思いながら。