ケータイ奴隷

あたしは、今まで一度も万引きをしたことがなかった。まだ万引きなんて知らない幼稚園のとき、スーパーでチューインガムを持って帰ろうとポケットに入れたことがあったが、母がすぐに見つけ、頭を叩かれてしまった。

わあわあ、と泣くあたしに、母はお金を払わないで持って帰るのは泥棒さんになってしまうのよ、と怒った。

それ以来、万引きは悪いことなんだ、という意識が心にちゃんと残っている。

だけど――あたしはケータイを見つめた。

ケータイが使えなくなるか、万引きをするか……。心の中でふたつを天秤にかける。

あたしは、目を閉じて考えた。

どのくらい経っただろう。あたしのなかで答えはひとつだった。

「ケータイが使えなくなるなんて絶対にイヤ……」

あたしは、回れ右をして、駅の近くにあるショッピングセンターへ走った。