この髪の毛は、アカリの物だ。
階段から突き飛ばし気絶させた際に、数本抜きとっておいた。
手紙とヘアブラシがぽつんと置かれたロッカーの扉を閉めた。
“タナカ”と書かれたネームプレートをじっと見て、ニヤリと笑った。
もうすぐ、この名前とはお別れ。
私はアカリになり、タナカさんは消えるのだから。
廊下の奥から、コツコツと靴音が聞こえてきた。
遅くまで残っていた誰かが、帰るところのようだ。
急いでロッカーから離れ玄関を出ると、
雲が途切れた空に、満月が浮かんでいた。
満月は青白く、陰欝な表情をしていた。
いつかどこかで聞いたことがある。
満月の夜には、犯罪が起こりやすいと。
今宵はうってつけの犯行日和……
いや、私が完全なアカリになるに相応しい、月夜だった。


