短編集

 


会計を済ませ次回予約を入れて、歯科医院を出た。



欠けた前歯を隠すため、アカリはマスクをつけている。


これも私が用意していたものだ。




外は雨が止んでいた。

曇り空で薄暗い。


二人並んで駅まで歩きながら、会話する。



アカリが言いにくそうに切り出した。



「タナカさん、えーと……聞いてもいいかな?」



「うん」



「私、足を滑らせて階段を落ちたんだよね?

えーと……それって本当かなと思って……」




アカリは何かを怪しんでいる風だった。



はっきり言葉にしないが

「突き落とされた気がするんだけど」

と言いたそうに見える。



ニッコリ笑い、アカリに答えた。



「本当だよ。アカリが足を滑らせた時、私はちょうど地下通路に入ったところだったんだ。

この目でハッキリ見た。
どうしたの?信じてないの?」



「あ…… ううん、信じてるよ」