短編集

 


歯科医師と私から“タナカさん”と呼ばれ、

アカリは驚いた顔をした。



タナカはアカリの名字ではない。

私の名字だ。



「タナカじゃない」と言い出しそうなアカリの耳に口を寄せ、こう吹き込んだ。



「ごめん、今だけ私の名前使って。

アカリの健康保険証が見つけられなくて、とっさに私の保険証出しちゃったの。


きっとバレたらヤバイよ。

他人の保険証で治療受けたら、詐欺罪になると聞いたことあるんだ。

警察沙汰になるの嫌でしょ?

今だけ“タナカ”でいて」




詐欺罪、警察という脅しに、戸惑いながらもアカリは小さく頷いた。



「タナカさん、レントゲン室へどうぞ」



「は、はい……」




レントゲン室へ向かうアカリが、足を止めチラリ振り返って私を見た。


不安そうな視線に、念を押すように強く言った。



「タ・ナ・カさん。早く行きなよ。
私は待合室で待っているから」