短編集

 


アカリの口に、私のハンカチを当てた。


みるみる血で赤く染まっていく。


よろよろと立ち上がったアカリを支え、二人分の荷物を持ち、地上に出た。



目の前のビルの2階には、歯科医院が入っている。


これもリサーチ済み。


行きつけではない初めての歯医者に、アカリを連れ込んだ。




歯が折れた事情は全て私が説明し、治療中も心配だからと側に付き添っていた。


その狙いは、アカリに余計なことを言わせないため。



折れた歯を調べながら、歯科医師が言う。



「へぇ、そこの地下通路で。見事にバッキリいっちゃったなぁ。

普通は反射的に、手で顔をガードするはずだけど」



アカリの代わりに私が答える。



「落ちている途中で気を失ったから、ガード出来なかったんですよ」



「え?意識失ったの?
大丈夫?脳外科行った方がいいんじゃないの?」



「大丈夫です。彼女はしっかり歩いていますし、頭痛や吐き気もないので歯医者だけでいいです」



「ふーん……よし、血は止まった。

タナカさん、初診だからレントゲン撮りますよ。
歯型もね。

大丈夫。差し歯を入れたら、見た目は元通りになるから」



「そうなんですか!元通りに!

良かったね。タナカさん」