凌路は顔をしかめた。

(つくづく男運がないとしかいえない・・・。
いや、若くして結婚していればその後の屈辱などなかったはずだ。)


「なぁ、俺を君の好きなようにこきつかってくれないか?」


「えぇ!?どうしてそんなこと?」


「俺はホテルを辞めてきた。
そして、このお見合いに臨んできたんだ。

さっき、カメラマンの家族が怪我をして困ってるとか言ってなかったか?
俺はホテルの仕事をするまで、アマチュアだがけっこういい腕で有名になったこともある。
学生のときは熱心にやっていたから、現像だって修正だってできるぞ。
俺を雇わないかい?」


「えっ・・・でも、うちだけの給料なんて安いわ。
家族が怪我をしたカメラマンはよそでも仕事を請け負ってるからいけたものだけど。
まぁ住居費がかからない人だったら、暮らせないこともないかしら。」


「よし、じゃ、俺を雇うでいいな。
俺は自宅があるから、住居費は痛手ではないしな。」


「ちょ、ちょっと待ってよ。
これはお見合いでしょ。採用試験じゃないのよ。

それに私がここで、先はありませんから、お疲れ様でした。っていえば終わるんじゃ・・・。」



「俺は終わりにしたくないから、ここに来た。
君に恨まれているのは承知の上でな。

君だって、昔の恐怖がなくなった方が都合がいいんじゃないのかい?
俺も、そろそろ前に進みたいし。」



「ねえ・・・あなたもしかして・・・あなたも前に進めないの?
妻が迎えられないってこと?」


何も言わずに黙りこくっている凌路を見て優理香は、


「そうなんだ・・・その理由で来たのね。
私がショックを受けたから・・・っていうのはあなたにとっての理屈ね。

本当はあなた自身、罪の意識で前に踏み出せないってことなのね。
それで叔母さんが・・・。
わかったわ、それなら私も協力できるかもしれないわね。」


「おい、なんで俺の救済がテーマになってるんだ!」


「だってそうでしょう?
ホテルタナサキのトップがわざわざ職を弟に譲って、私なんか相手にお見合いの席をもうけるなんて。
あなたの言い分もわかったし、その協力だったらできそうな気がするわ。」


「へっ!?(なんか変な展開になってきてるぞ・・・。)」


「はい、じゃ、お見合いはおひらきね。
仕事は明日からよ。
明日は、朝9時に事務所前に集合して、カナリヤハウスっていうペンションに向かう予定です。
以上!」


「わ、わかったよ。明日からよろしく・・・」