凌路の電話をききながら、またそばにいるいい人に迷惑をかけたと優理香は思った。


「あの、でも・・・私はまだここを出るわけにはいかないし・・・。」


「大丈夫だよ、補充の人員はこちらからまわしたからもどっていい。」


「えっ?でも・・・。」


「とにかく、俺も君を迎えにいくからね。
どこにも行かないでくれよ。
じゃ、また明日。」


「そんな・・・勝手にそんなことになって・・・私はどうしたら・・・いいの。」


「棚橋凌路と帰ればいいんだよ。」


「店長!?」


菅谷は優理香の前にあらわれて言った。


「ほんというと、俺は君といっしょに仕事がしたい。したかった。
でも、俺はあいつに恨まれるのは嫌なんだ。

俺は友情の方を優先するやつだからな。
だから君は冷静にあいつとお見合いをやりなおすべきだ。」


「店長・・・。
でも、『ひだまり』はどうするんですか?
もう廃刊は悲しすぎます。」


「そうだなぁ・・・廃刊は俺も悲しいから続けてくれ。
棚橋をカメラマンにしてこの町の産業や自然を取材してくれればいい。

あいつはやってみたいと言ってたしな。
どうだ?いいアイデアだろ?
『ひだまり』の編集をしながら幸せになるんだよ。」


「はい。」


「菅谷からのいい提案も出たことだし、迎えに行くからちゃんと待っててくれよ。
あ、菅谷にはカメラマンの件はOKだと伝えておいてくれな。
じゃ。」


凌路の電話が切れた後、菅谷も笑って優理香に手を振って出ていった。


「私、ここに来てよかったです。店長・・・。」


翌日の朝、なんと朝7時には凌路が迎えにやってきた。



「おはよう!
あれ、眠そう?悪い・・・起こしてしまったのかなぁ。
もう俺・・・少しでも早く迎えにきたかったから・・・。」


「ぷっ!棚橋凌路。あいかわらずだな。
集中してる仕事はさすがに早いじゃないか。」


「よぉ、菅谷遼二。
今回ばかりはものすごく感謝してるよ。
追うのには自信があったけど、優理香の心を癒す自信がなかったからな。」


「俺が癒したんじゃない。
この土地の自然や人々の心や伝統工芸品が彼女をリフレッシュさせただけだ。」


「なるほど・・・でも・・・いいのか?
おまえだって優理香のこと・・・。」



「はぁ?あいかわらず優等生ぶってるわりにバカだな。おまえ。
彼女は誰を意識してるからここへ来たと思ってるんだ?
そりゃ、彼女ほどの女性なら親しくなりたいと思う男は多いだろ。
けどなぁ・・・片思いじゃ恋愛だの結婚だのって成り立たないのはお互いいい年してるんだからわかってるよな。」


「ああ。そだ、優理香と似てはいないけど、うちのホテルからいい看板娘を連れてきたんだ。
たぶんおまえ好みかもしれんな。」


「はぁ?」