危険なお見合い

優理香は菅谷にさびしそうといわれて驚いた。


(私がさびしい?そんなことないわ・・・私は心の平穏を求めてやってきたんだもの。
おびえずに毎日労働できるって素敵なことはないはずよ。

そう、凌路さんにかかわらなければライドのような男のことも姉さんのことも知らなかったことだと言えるわ。
私は何もかかわらない・・・そうよ。
私は何も知らない。

姉さんが凌太さんにお金目当てで近づいたって、凌路さんとかかわっていなければ私は何も関係がないもの。)



「店長、私は棚崎さんとはもう何もかかわりはありません。
以前はいっしょに仕事したり、姉が弟の凌太さんのところへ行ったりしていた事実はあります。
でも、もう今は・・・。」


「そっか。俺は君のことを詮索する気はないよ。
でなけりゃ、雇うことすらしなかったしね。
棚崎兄弟だって有名な青年実業家なら群がってくる女性くらいたくさんいるのはあたりまえさ。

けど・・・棚崎凌路と見合いしたって話はちょっと気になるけどね。」


「えっ?」


「こういう田舎じゃ、君のような垢ぬけた美人はめずらしくてね。
そういう女性を雇ってる俺は鼻が高い反面、心配も多い。

俺もいちおう健全な独身男性だからさ。
君の近くに寄るだけで、いい匂いがするから・・・え~と・・・いや、仕事!仕事だ。」


「ふふっ。今日は織物の作業所の納期でしたよね。」


「ああ、あそこは半分は身体障害者だが、とても人気のある品をいれてくれるんだ。
先輩たちの技法は受け継ぎながらデザインはとっても斬新でね。
みんな自分なりに研究してくれているんだ。」


「すごい!みんなこの地方の織物が好きなんですね。」


「ああ。ただ好きというよりも生きがいだろうね。
自分の住む場所を見つけることができたっていう人も多いよ。」


「私も早くそんなふうにいいたいわ。
私が住むところ・・・。」


「まだ見つからなくてもいいんじゃない?
一生をかけて死ぬ前にここだったんだって思っても遅くはないと思うな・・・俺は。」


「そうね。結局はそうなんだろうけれど、私も見つけた!って気持ちになりたいだけなのかも。」


優理香がそう呟いた途端、菅谷は優理香を抱きしめた。


「君は俺を誘惑してるのかい?美人の心が弱っていると俺みたいなおっさんはよからぬことを考えるから弱みを見せるべきではないよ。」


「あ、あの・・・ごめんなさい。」


「はははは。でも忠告はしたからね。
次はこれだけではすまないよ。」


といって、菅谷は先に倉庫へと移動していった。