りょうじという名前まで字は違えども、年齢も勘のよさまで凌路に似ているこの男に今はすがるしかない・・・。
そんな気持ちになってしまった優理香はつい素直すぎる要望を菅谷にぶつけてしまった。


「あの、私を特別視しないでください。
それと、私のこと優理香と呼ばないでほしいんです。
それに、凌路さんって人から連絡があっても何も言わないでください。」


「はぁ・・・君は面白い人だなぁ。
いきなり妙なお願いしてくれるんだ。

優理香ちゃんと呼ぶなっていうなら名字でも偽名でもいいけど・・・りょうじさんから連絡があっても・・・っていうのは俺困っちゃうんだけどなぁ。

俺は君に連絡できないってこと?じゃないよね。
おそらく・・・君の言うりょうじってのは棚崎凌路かな?」


「えっ・・・うそ・・・どうして知ってるの?」


「棚崎凌路は俺の先輩でね、昔俺がホテルマンとして修行してたときの社長だった。
偶然、名前が同じだからいっしょに飲んだりしたこともある間柄さ。

君は棚崎と最近取材したりしてたよね。
彼がカメラマンとして同行してたようだけど・・・。
もしかしてけんかしてるとかかな?」


「いえ・・お見合い相手なんですけど・・・私といれば足をひっぱってばかりになるから。」


「そう。じゃ、そっちの凌路さんは放っておいて、俺と付き合ってもらおうかな。
俺は迷惑だと思わないし、君が幸せを感じてくれることなら協力するよ。」


菅谷は凌路のことも雑誌の取材のことも知っているのに、ニコニコ笑って優理香を雇ってくれたのだった。




「店長!どうしてこの売れ筋だと思われるお菓子と敷き物の数を増やさないんですか?」


「ああ、それね・・・作ってる人の手作りなんだ。
つまり、作る数には限界があるってこと。
それに後継ぎもそんなに現れなくてね。」


「そうなんですか・・・。もったいないですね。」


「うん、そうだな。けど、こういう田舎町では仕方ないし、人がいなくなれば町もなくなる。
俺も今はこの町の人の味方みたいなことをやってはいるが、みんないなくなっちまえばどこかへ行って仕事を探すだけだな。」


「そんな・・・でもそんなことしてると、お嫁さんももらえないんじゃ?」


「いいよ、そんなもん。俺は興味ないし・・・。
そうだな・・・君が俺の嫁さんになってくれるっていうなら、もうちょっと利益とか未来について真剣に考えてみてもいいかな。」


「えっ・・・。」



「どうして棚崎凌路みたいないい男を、置き去りにしてきちゃったんだろうね。」


「店長には関係ないことです。それともプライベートなことも言わなきゃいけないんですか?」


「いいや、無理に聴き出そうなんて思わないさ。
ただ、君がさびしそうに見えるから、気になっただけだよ。」