そう言われて優理香はあらためて顔が熱くなった。

(どうしたんだろう・・・すごく熱い。)


「ちょっとは俺の存在を意識したかな?」


「う・・・うん。
だけど・・・私はまだ・・・あの・・。」


「俺が怖いか?
そばにいるのが嫌か?」


「そ、そんなことない!
逆、逆だよ。凌路さんがいてくれてありがたいと思ってるし、今はそばにいたいと思ってるし。
ただ・・・私が男の人とそういう関係になったことがないから、今の自分の行動とか考えとかに戸惑ってるっていうか、どうしていいかわからないっていうか・・・。
ごめんなさい。」


「謝ることはないよ。
俺は君への謝罪からのスタートなんだから、覚悟はしてた。
でも、今はちょっとうれしい気分なんだ。」


「あ、あの・・・私。
私・・・仕事があるから・・・またあとで・・・。
あ、誤解しないでほしいんだけど、ほんとに雑用がいっぱいあるからで、そばにいたくないとかじゃないから・・・私がどうかしてるだけだから・・・あ、何いってるんだろ。
じゃ、また・・・。」


「ぷっ!わかりやすいな。
今度は泣かせないようにしなきゃな。」



優理香は入口の掃除をしながら心を落ち着けようとしていた。

(昔、出会った頃の凌路さんじゃないのはわかってる・・・謝るためにお見合いの席に現れたことも理解してる。
だけど、私が変になっちゃったんだわ。
今も体が熱くてふるえてきちゃう。
うれしいことを言ってくれているのに、そこに居たくない・・・もしかして私・・・凌路さんに恋したの?)


優理香は自分の気持ちに正直になるほど、だんだん怖く思えてきた。


そんなとき、優理香に電話がかかってきた。


「はい、お待たせしました。名郷ですけど・・・」


「あっ、もしもし優理香?久しぶり!」


「えっ?おねえちゃん・・・。どうしてここがわかったの?」


「そんなの簡単よ。凌太くんが教えてくれたのよ。
ねえねぇ、あんた凌路さんといい感じにつきあってるんだって?」


「えっ・・・そんなこと。
ただ、美沙子おばさんがお見合いの席をもうけてくれて、相手が凌路さんだったっていう・・・。」


「へぇぇ・・・だって、凌路さんって昔、私と間違えてあんたと凌太くんを引き離すつもりであんたを襲ったでしょ。
そのおかげであんたは男性恐怖症になってしまったんじゃなかったかしら?」


「そうよ。でも、凌路さんだけが原因じゃなかったし、凌路さんは私に謝罪するためにお見合いをおばさんに頼んでくれたの。
今は、とても私を大切にしてくれてるわ。」


「じゃあ結婚も間近なのかしら?」


「それは・・・わからないわ。」


「なぁ~んだ。じつはちょっとお金の頼みがあったのになぁ。」


「おねえちゃん、もうあの兄弟をふりまわすのはやめてよ。
私、凌路さんと別れるし、ひとりで仕事してがんばるわ。」


「まぁ、あいかわらず堅いわね。
いいわ。あんたをまた不幸に突き落としたっていわれたくないし、こっちで何とかするわ。
じゃあ、またいつかね。」