凌路はホテルタナサキの経営は優理香とのお見合いのために凌太にすべて任せることにしたのだが、自分は福祉事業として数件の温泉を主体とした療養施設を経営していた。


「えっ、私が温泉付き療養施設に行くの?」


「うん、取材してもいいよ。
オーナーの許可はとれてるからね。
持病のある人やリフレッシュして年齢に関係なくバリバリ仕事をしたい人・・・いろんな目的で利用している人がいるんだ。」


「へぇ、取材してみたいわ。
女性向けの温泉ばかり当たってたけど、体を治す湯治場みたいなところは手つかず状態だったの。
ちょっと怖い気もしてたし・・・。」


「怖い?」


「おじいちゃんたちは私を見るとワァって集まってきて、裸のおじいちゃんたちに囲まれると・・・ちょっと気分が悪くなってしまって。
決しておじいちゃんたちみんなが私を襲ってきたとは思わないけれど、やっぱり・・・怖くて。」


「なんでじいさんなんだ?
ばあさんへの取材でいいだろう?
なぁ、君の出版物の企画を考えてる別の会社か人物がいるのかい?」


「基本は私が自分で考えるんだけど、有名な雑誌だと会社の企画室でほとんど取材することは決まっているから。」


「フン・・・読者が喜ぶ企画って狙ったんだな。
美人のレポーターが来れば、じいさんたちは喜ぶよな。

今回は取材はあくまでもついでだ。
君自身、療養しなきゃいけない。

でも、私、そんな療養しながらの生活なんて・・・第一そこまで自分にお金がかけられないし。」


「施設の費用なら気にしなくていい。」


「まさか、私の費用を凌路さんが出そうとしているとか?
それはダメです。
いくらお見合い相手だから、過去の償いだからなんていっても、それはもういいですから。」


「ダメだ。ゆっくり休まないと。
心無いヤツはゴロゴロしてるが、そういうのに引っ掛かっても心だけは痛まないで、バカだとわりきれるようにならなければ・・・。
ずっとトラウマを持ち続けてはいけない。

それは施設のオーナーの命令だ。
忘れろといっても忘れられるもんじゃないけれど、自分にまわりに自信を持てるように回復しなきゃ。」


「オーナーって・・・凌路さんなの?」


「おぉ。さすが優理香は頭の回転が速いな。
だから、療養するんだ。

取材はばあさんたちで十分だから。
話がくどくて長いからな。ははははは!」


「凌路さん・・・ありがとう。
私、やってみる。」