(大変だ!村が全滅する前に逃げなくては…ほかの街へ…)

急いで家から逃げようとした石工の目に、騒ぎに気付かず静かな寝息を立てている母の姿がとびこんできました。

(都会…街に出るチャンスなんだ…)

石工は、煙のように迷い出る様々な夢に巻き込まれていきました。そうして、道具を持ち、眠っている母をそっと背負うと、隣に住む占いと簡単な医者のまね事をして生計を立てている老婆の家の軒先に寝かせて、足早に村を出たのでした。


幾日も歩くと、ようやく街に着きました。そこは、この地方一帯でいちばんの都会でありました。

さっそくわかい石工は、道端の石で簡単な像を作って、どこか閑散とした大通りに出て売り歩きはじめました。


昔より生彩の欠けた通り、所々崩れかけた家をぼんやり見つめながら歩いていると、後ろからまるで風鈴のように軽やかな声が、石工をからめとりました。

「もし、あなたさま」
それは、彼がかつて彫りあげた美の女神かと見紛うような可憐な少女でありました。
「不躾でございますが、あなたさまが、その石像を彫られたのでしょうか?」
「その通りでございます、お嬢様」
石工は、幾分どぎまぎしながら答えました。