ある村に、年老いた母親とふたりで暮らす、わかい石工がおりました。


彼の腕は一流で、どんな石からも、まるで作品が埋め込まれていて、そのまわりをただ、のみで削っただけのように、素晴らしく繊細な作品を作り出すことができました。
しかし、田舎に暮らす彼は、全くの無名で、ただ村人たちの依頼で神像を彫ってはわずかな報酬をもらうだけでありました。老母をもつ身では、都会に出ることもままなりません。母は常日頃、スープを煮込みながら、彼こうつぶやくのでした。

「もうわたしも年なのだら、わたしが死ぬまであと少しそばにいておくれ」

わかい石工の、世に自分の腕をひけらかしてあっと言わせたい、なんとか有名になりたいという熱望は、愛情が猜疑に変わるように、みにくい欲望に膨らんでいきました。

「かあさまだ!かあさまがいらした!」

ある夜中、石工は村中に響きわたる鐘の音と悲痛な叫びに目を覚ましました。

「かあさま」というのは、この地方の方言で、かかるともう助からない恐ろしい伝染病のことであります。まるで母親が、子供を抱いて去っていくように、ばたばたとひとが倒れていくところから、いつからともなくこう呼ばれるようになった、悪魔の病です。