そして、
その時も同じ言葉をかけられたなと思い、
トボけてみることにした。
「そうなんですか。
私、はっきり覚えてないんですが、
何処だったですか?」
「えっとぉ、あの、俺も、
はっきり覚えてないんだけど、
確か、あった事あると思うよ」
佐紀は、男子の狼狽ぶりを見て、
ちょっと、意地悪な気持ちが芽生えた。
「いつ頃ですか?」
「えっ、あの、その、
2年前くらいだったと思うよ」
「2年前と言えば、私、
高校生だったんですが、
その時………?」
「あっ、いや、
そんな前じゃなかったかな」
「じゃあ、いつ?」
「えっとぉ、それは……」
佐紀は、
“この辺で、そろそろ、
勘弁してやるか”
と、思い、
「私、覚えていますよ」
「えっ、何を?」
「あなたと、会った時のこと」
「えっ、会ってんの?」
「ええ」
「何だ、会ってんじゃん」
この男、会っていたとわかると、
急に、なれなれしくなってきた。
いつもの常套句を言ったら、
たまたま、当っていただけなのだが。

