(2)下宿
佐紀は、電車を降りると、下宿に向かった。
佐紀は、料理が苦手である。
大学生になると、毎日、
自分で作らないといけないのかと思うと、
気が重かった。
しかし、幸いな事に、
大学からは少し離れてはいるが、
母親の姉になる伯母さんが、住んでいた。
そこで佐紀は、伯母さんの家に、
下宿することになった。
伯母さんには、二人の男の子がいたが、
今は就職していて、家を出ていた。
だから、部屋も空いていて、
喜んで佐紀を、受け入れてくれた。
伯母さんも、佐紀が来て、嬉しそうだった。
以前、
「私の所、男ばかりだったでしょ?
だから、女の子が来てくれて、
嬉しいわぁ」
そう言われた事があった。
そして伯母さんは、なにくれとなく、
佐紀の面倒を見てくれた。
門限があるとか、多少の不便さはあるが、
佐紀は、それ程、苦にはならなかった。
まあ、門限と言っても、
決まった時間があるわけではないけれど、
遅くなった時の伯母さんの心配は、
尋常ではなかった。
佐紀は、叔母さんに心配をかけまいと、
部活が終われば、
すぐに帰る事にしていた。
それより、食事を作らなくてもいい事の方が
不便を上回っていた。
疲れて帰って来た体で
食事を作るというのは、
どうしても、億劫になる。
かといって、外食にすると、
好きなものばかり食べてしまって、
栄養面で、不安が残る。
部活する者にとって、下宿生は、
とかく負担が大きかった。
家に帰れば、当たり前のように、
食事の支度が出来ている。
佐紀は、外に出てみて、
初めて、そのことがわかり、
母に感謝せずにはいられなかった。