縁側に座った莵毬は、ため息を吐き出した。
『俺は、俺を赦さない』
何故、こんな風にしか生きられないのだろう。
その言葉は、自分を戒める、重く頑丈な枷だった。
ともすれば暴走しそうになる激情に、理性がかけた枷。
けれどもそれは、心を酷く重く、濁らせる。
じわじわと理性を錆びさせ、いつかきっと枷を壊してしまう。
きっと、彼女は傷付く。
傷付いて、致命傷を負いながらも、ひた隠して。
そして、手を差し伸ばすんだろう。
どうした、と。
背負いこんだ傷は、癒えることなく。
もう、流す血もなく。
膿み、腐り、死んでいく。
いっそ、死んでしまった方が楽なのかもしれない。
けれども、苦しみながらも、もがき続ける。
「俺は……彼奴を支えることさえ……出来ない」
自分もまた、彼女を苦しませる原因だった。
彼女の前に、現れる資格などない。
不意に、莵毬の聴覚が音を捉える。
ひらりと屋根に飛び乗ると同時に、紅河が姿を現した。
紅河は、莵毬が座っていた場所と、屋根を見比べて、切なげに笑った。
それから、莵毬と同じ位置に座って、隣に二つの盃と酒を置く。
「眠れなくて、な……」
言い訳のように呟いて、紅河は一人で酒を煽った。
ここ数ヶ月で、彼女は酷く痩せた。
その背は、小さく。
力を込めれば、折れそうなほどに華奢だった。
それでもなお、病魔は紅河を苦しめ続ける。
その背を記憶に刻み込み、莵毬は背を向けた。
これ以上、ここにはいられない。