約束をしたのか、それさえもあやふやで。
情けないほど、揺ら揺らと揺れている。
『覚悟なんて、ないんだ……』
最後に聴いた、紅河の言葉。
覚悟が無いのは自分達も同じ。
真実を知るのが、怖い。
紅河さんが、実は敵だったら?
自分達に向けたことすべて、嘘だったら?
傷付きたくない。
だから、何でもない振りをする。
弱いんだ、こんなにも。
剣術の強さ以前に、心が弱い。
「………何も、出来なかったとわかっているならば……」
唐突に斎藤が言った。
「今から、してやれる事を見つければいい」
「斎藤さん……」
「まだ、終わったわけじゃないだろう」
あぁ、なぜこの人はこんなにも強いのだろう。
眩しいほどに輝いて見える。
「知りたいか、紅河の居場所を」
闇の中なのに、沖田は眩しそうに目を細めた。
「約束、したんだろう?」
腹の底から、熱いものがこみ上げてきた。
何故か涙が零れた。
「…………たい。……知りたいっ…」
口から出たのは、幼子のような言葉。
「やっと出したな、本心を」
斎藤は綺麗な微笑みを見せた。
沖田の、本心。
気付かないうちに、自分自身で奥に仕舞い込んでしまった心。
作ってしまった壁が、ゆっくりと溶けていく。
「……あぁ、本当に」
本心に気付いてしまった。
「私は、約束をしたからじゃない。……ただ、紅河さんに会いたいんだ……」
「自分の事となると本当に鈍いな、総司は」
「酷いですね……まぁ、そう言われても仕方ありませんけど……」
やっと、沖田が笑った。
「行きましょう、紅河さんのところに」


