夜は更け、閉店した店内は閑散としていた。食器を洗う流水の音と椅子を上げるカタンという音だけが空気を震わせ、沈黙を和らげている。


 そんな中、不意にテーブルを拭く手を止め琥太郎が口を開いた。


「ねぇ…雪姫ちゃん。僕、児嶋先生が犯人だとは思えないんだよねぇ…」


 あまりにも曖昧な、しかし確信の色を帯びた呟き。雪姫もまた箒を握りしめたまま頷く。


「…うん、わたしもそう思う。だって動機がないもん。」


 この事件の始まりは一年前の事故。送られてきた5通の手紙がその証拠だ。


 犯人は事故のことを知っていて斗真と関わったことがある人物のはず。今年他県から赴任してきたばかりの児嶋は犯人には成り得ない。


「それに児嶋先生は晴流くんのクラスは受け持ってないから。面識すらないと思う。」


「そっか。」


 二人共同じ結論に辿り着き、黙々と作業を再開する。しかしまだ疑問は残るのだ。


──何で、わたしの顔見てあんなに驚いたんだろう…。


 雪姫の顔を見て晴流だと誤認するのは分かる。よくあることだ。しかし、悲鳴を上げるなどどう考えても異常である。