私は少しずつ、少しずつ手を吟の所へ持っていく。




「…………よろしく」

暖かい手の体温が私の手に移っていって。

まるで氷が溶けるかのように

私は久しぶりの笑顔を見せた。


それは狂った私の笑みではなくって。
溶かされた本当の笑顔を。


「………吟?」


「…あ、いやなんでもねえ!
……あいつらともよろしくやってくれ。みんな良い奴だから」


吟は顔を手で隠しながら呟いた。



「………うん。

短い間だけど、よろしくね」


「ん?なんか言ったか?」


「………なんにも言ってない」





脳内にいたもう1人の私が呟いた。



『もう、手遅れね』