「…………月の女神様。もう出てきてください」



「……気づいてたのか、ヘルメス」



「そりゃね。オーラとかありますもん。
ま、千草は気づいてないようでしたが」



「そーだな…」



大気が一瞬揺れ、光が生まれる。

それが人の形となってゆく…







「まあ、千草にバレたら危ないところでしたよ。
まさか、月の女神が11000年前の女神とは思うはずがない」

「ああ…」



2人は少し笑った。




「あ、そうだ。あの吟とかいう青年。
あの子に、届いた女神の書はちゃんと回収したんですね?

女神様も無茶ですね…あの青年は女神の書を読んで、全てを知った。

自分の父親が起こした事も、千草の秘密も。

そして、千草がなぜ戦争を起こしたのかも……


あれは知りたい真実が読める書ですから」

「ああ…それは……まぁ、いい。過ぎたことだ…
けど、記憶も全て消した。

千草の事も、真実も全て思い出しはしない。

千草も、今となってはそれを願うだろうし…私は間違ってない、よな?」


「はは……もちろんです。
僕は決して責めてるわけではございませんよ」


「千草には、悪いことをした。
11000年前、私が死んでから私は女神の羽を探してた…

それを見つけるには、千草が頼りだった。

千草の運命を、11000年前から決めつけてたんだ。


あとは、魔法に関連のない世界で、楽しんでほしいな」



月の女神はフッと笑った。

切ない切ない笑いだった。


「………今日は風が気持ちいいでしょうね、人間界」



「爽やかな夏風が吹いて…
千草も喜ぶだろうな」








そう言って2人の神は、天界へと帰っていった。