「ごめんね、春美」


「……え……?」


「やっぱなんでもないや。気にしないで」



私がそう言うと、春美はふにゃっと笑って「なにそれー」と言った。



この笑顔を守るのも私の使命なんだ。




気づけば、あの建物は、あと少しの位置にまで迫っていた。




耳の奥で、悲痛な叫び声が聞こえた気がした。


『千草…千草ー!』



人間界にいるはずの、愛しかった人の声。


幻聴まで聞こえるなんて…



でも、なんで…?


あの人は、私のことなんか憶えていないはず。



なんで……?