春美が言いかけた先は、きっと…


私には無理だ。そう言いたかったんだろうな。


私は今は違くても昔は味方だった人に杖をふれない。

きっとそう思ってる。



でもね、春美。

今の私は。


残酷で残忍な氷の魔女。





杖を一振りして、あるものを取り出す。


それを広げて、軍服の上にから着た。



「黒い…コート…?」


シランが不思議そうな、怪訝そうな顔をして言った。


そう。

私が着たのは、あのフード付きの黒いコート。

まあ、そんなのどうでもいい。



私は1度目を閉じて…


開ける。




「ヒィッ…………」


シランがうめき声のようなものをあげた。


あはは…笑っちゃうなぁ、その反応。

やめてよね。怯えないでよ…


私は杖を前に差し出した。



「ミッシング・スペリアス・デュエー…」
「ダメだ!フグリ!」

…………え?



突然の妨害で、私は手を止めた。

今ここで、フグリと呼ぶ人物。
春美。そして…

「なんで…カエデ…?」


カエデが私の前で、ほうきの上で立ちながら手を広げていた。

「ダメだ!フグリ!
俺は…俺は、大丈夫だから。先行ってよ。
俺なら、自分で治癒魔法をかけて大体治ってる。でも…」


カエデはうつむいた。

なにかあった…?

「でも…
フグリは先に行かなきゃ!一刻でも早く、先に行かなきゃいけない!

俺が…俺が、シランをやる。
先に行ってくれ」

「でも…!」

「お願いだ、フグリ!いや、『千草』…!
ぜってぇ、帰るから。

帰ったらちょっと付き合ってよ。遊びに行こーよ!」


「………うん!」



私は涙を必死に堪えた。

氷の魔女はもうどこにもいなかった。



黒くなってしまった心は変わらない。
けどカエデのおかげで、一瞬でも浄化されたのなら…


「なに良いこと言っちゃってんのよ。
カッコつけないでよね。
私は千草と春美にしか興味な…」

「ダークネス・ガスト」


「なっ!
卑怯よ、こんな急に!」


ダークネス・ガスト。

上級闇魔法。
小さい闇のボールを敵に飛ばす。

猫騙しみたいに人を驚かす専用で、威力はさほどない。


「卑怯…?
そんなの、お前に言われたくない!
それに、シランならこんな魔法弾き返せる!つまり…
俺が敵になって、気が動転している…とか?」

カエデがニヤリと笑った。


「なっ…なっ……!
いいわよ、カエデ。受けて立ってあげる!
あなたを倒して、すぐ2人に追いついてみせる!」


「行って!2人とも!」


私はカエデに頷いてみせると、春美と飛んで行った。

後ろで、カエデが叫ぶ声はした。


「ぜってぇ、ぜってぇ千草たちのところには行かせない‼︎‼︎」