「本気で向き合ったことがなかったし、その必要もないと思っていた。
ただ自由に弾ければ良かった。
僕はヴァイオリニスト志望ではないし、ヴァイオリンは副専攻だから合格点さえ貰えればいいくらいにしか思っていなかった。
でも昨年の秋、3人で演奏した後、違ったんだ。
吹っ切れたって言うか……光が見えたという言うか。モヤモヤしてた気持ちが──晴れたような気がしたんだ。
あの演奏の後、教授からもリリィや今師事している師匠からも、何度もコンクールを薦められて」



昨年の秋。
詩月が留学を諦め、自分自身の演奏に自信喪失し、どう弾いていいのか? を悶々と考えていた時だった。



幼なじみの理久から「息抜きをしないか?」と、勧められた楽器店主催の音楽ライブで、郁子と安坂貢と共に3人で合奏をした。