郁子が唖然と詩月を見上げる。



「……まだ、指が震えている」



詩月は、言いながら指を見つめる。



「無理していない?」



郁子の表情が微かに曇り、詩月に尋ねたが、詩月は「心配ない」と静かに微笑み、そっと郁子の不安げな瞳から目を逸らす。



「君は上手く弾けた?」



歩きながら、詩月は訊ねる。



「ん……辛うじて合格」


郁子は、残念そうに苦笑いして見せる。



「ヴァイオリン、コンクールはどう?」



「ん……まあまあかな」



「貴方のヴァイオリンは趣味でだけなんて、勿体無いと思ってたの」



「どうも。ずっと趣味でという言葉で、自分を納得させようとしていたのかもしれない」



郁子が、真剣な顔で聞いている。