窓越しに見上げる空は、いつの間にか降るのか降らないのか、はっきりしない色に染まっている。



 詩月は階段を下り、渡り廊下をゆっくりと歩く。



教室へ向かう階段を上り始めた詩月を、郁子が呼び止めた。



「まさか、演奏曲を変更するなんて思わなかった。

それに本当に『あれを』弾くとは思わなかった。

無茶をするわね。

下手したら退場ものか、追試になるところだわ」




郁子は、興奮気味に早口で言う。



「待ち時間の間も、ずっと考えてたんだ。

……どう弾こうか、どう繋げようか。

『宵待草』を思い出したら、指が自然にフォーレの『夢のあとに』を奏でていた」




詩月は、楽譜を入れたファイルをひらひらさせて微笑む。