「聞いたか? 周桜のこと!?」



「あれだろ!? 実技試験、やらかしたんだってな」



「そうそう、演奏の途中に弦が切れたらしいな」



「ウソーっ!?」



 ヴァイオリンの実技試験。


郁子に厳しく云々言いながら、詩月自身かなり緊張していたらしい。



受験とは、そんなものだ。

万全の準備をして挑んでも、思わぬ出来事が起こることがある。




 課題曲、ラフマニノフ作曲「ヴォカリーズ」の終盤。


後、数小節で曲を弾き終えるというところでヴァイオリンの弦が1本、拍子抜けた音を残し突然切れたのだ。



が、試験担当の教授達が騒然とする中。


詩月は慌てる様子もなく、平然と残りの数小節を何事もなかったように、最後までピチカートで弾き切り演奏を終えたという。