「自分自身の努力や練習の日々を信用しろよ。

失敗を恐れて最高って言える演奏なんてできないだろ」



詩月の一言一言が、すんなりと郁子の胸に入ってくる。



「緊張したら知ってる顔を思い出せ」



詩月はそう言って、笑みを浮かべた。



 渡り廊下を抜け、各々の試験会場へと向かう。



郁子は詩月の言葉を噛み締めながら、詩月が公園で弾いていた「メンデルスゾーン作曲ヴァイオリン協奏曲」の演奏を思い浮かべた。



夕陽に照らされ演奏していた詩月の立ち姿は凛々しかった。



ヴァイオリンを弾いていた姿も煌めくような演奏も、周りの景色に溶け込んだ1枚の絵画のようだったと。