オクターブに悠々と届く詩月の長い指は、この曲を弾くのにかなり有利だ。


低音を激しく弾かなければならないので、技量が足りなければ雑音に聴こえる場合も多く、慎重な演奏が必要になる。



 冒頭から高速で、長く激しく下降する短音階の和音と、急速なパッセージが繰り返される。



あんな状態で……何事もないように平然と?



教授達は詩月の演奏を聴きながら、唖然と評価シートをみつめる。


どの項目も減点の要素が見当たらない。


そればかりか、曲が始まってから中盤まで1つもミスがない。



どれほど弾きこめば、ここまで完成させられるのか?


教授達の中には顔から血の気が失せている者、ペンを握る手が小刻みに震えている者もいる。