指先から繰り出される詩月の演奏は、感受性豊かに奏でられ表現力も、クラッシックは堅苦しくて面白みがないという思いこみを払拭させてしまうほどだ。




「……すごい。彼のあんな真剣な顔、初めて見た」




言いながら、郁子の目には涙が滲んでいる。




「これでも遊びで弾いてると言えるか?

余裕で弾いてると?」



郁子は黙したまま首を、横に振る。



「周桜は……この演奏でも納得していないだろう」



「!? ……この演奏でも」



「素人相手でも、人様の前で演奏するんだ。

聖諒の音楽科で、天才ピアニスト周桜宗月の息子という看板もある。

それなりの覚悟も評価も承知で、かなりの練習をし、弾きこんで弾いているはずだ。

相当なプレッシャーの中で、弾いてるはずだ」



安坂の言葉に力がこもる。