「そう……なのか?」

「あら、気づいてないの!」

詩月は、喫茶店に入ってきた時、ウェイトレスが言った言葉を思い出す。

「わたし、昨日あの猫が江ノ電に乗ってるのを見たの」

「江ノ電も利用しているのか、あの猫?」

「ええ、目撃情報も多いのよ」

「猫が電車に乗って!? あの猫は明らかに何処かの飼い猫だろ?」

詩月の声にまさか? と言う思いがこもり一際大きくなる。

「何? お前、知らなかったのか? あの猫、けっこう有名なんだぜ」

「そうそう、此処の他に鎌倉や由浜、江ノ電沿線やJR線にも出没してるらしいの」

「俺はみなとみらいホールの前で見かけたぞ」

「あら? わたしは元町通りで見かけたわよ」

詩月は白い猫がどうやら電車に乗り広範囲に行動しているらしいことに驚き、言葉も出ない。

「俺さ。何度か後をつけたんだけど、此処以外は途中で見失ってしまって行き先がわからないんだ」

「はぁ、バカか? 猫の後をつけた……どんだけ暇なんだよ」

どっと笑いが起こる。

 電車に乗る猫なんて、そうそう居ない。

しかも、真っ白で血統も良さそうだし気品もあり、首にブランド物のスカーフを巻いた目立つ猫だ。