舞台中央。

胸が熱くなった。



チャイコフスキー作曲 ヴァイオリン曲「懐かしい土地の思い出」は、一般にはあまり有名な曲ではない。


 今、この舞台で「懐かしい土地の思い出」を弾いていることが信じられない。


 コンクールの翌日。

安坂さんとの二重奏を持ちかけられ、ピアノでショパンを弾くと学長に食って掛かかった。

ヴァイオリンは弾かないと断ったはずだった。



 なのに……。

再三、学長室に呼び出され、ヴァイオリンを弾くよう説得された。



 楽オケの年末講演で、ベートーベンの第九を弾くことになっている安坂さんは、コンマスとしてオケを束ね、猛練習の最中だからということで、二重奏の話はなくなった。