数日後。

「ったく、何考えてるんだ!? あの学長は」



詩月は喫茶店モルダウに向かって歩きながら、愚痴をこぼす。



「実に不愉快だ」



話はこうだ。



ヴァイオリンコンクール。

学長は優勝候補と目されていた「安坂貢」と、そのライバルと噂されていた女性奏者を退け、詩月が審査員満場一致で本選を制し、優勝したのを知った。



週明け早々の授業終了後。

詩月は学長室に呼び出された。



「文化祭の演奏だが大学の音楽科、安坂くんとデュエットで1曲どうかね?」


「はぁ?……ピアノでショパンをとおっしゃったのでは?」



詩月は唖然としつつ、聞き返した。



「旬の話題のほうが宣伝効果は上がるものだよ。

ヴァイオリンで1曲、弾きたまえ。

安坂くんには話を伝えておこう」



「お断りします」


詩月は、きっぱりと言った。