「リハビリをしながら、弾けない虚しさに絶望し、何度もこれを見ては励まされた。
もう、前のようには弾けないとわかって断念したが、それでも……」



アランは左手を添え、ヴァイオリンを丁寧に愛おしそうに撫でた。



「君の演奏を聴いた時、もう1度ヴァイオリンを弾きたいと思った。
君が、その指で懸命に弾く姿を見て、もう1度音楽に携わっていきたいと思った」




アランは詩月にそっと、ヴァイオリンを差し出した。



「このヴァイオリンは、君が弾くべきだ。
リリィの思いが宿っているヴァイオリンだ。
私は……また、1からリハビリを始めようと思う」



アランは更に続ける。



「そして、『懐かしい土地の思い出』を弾いてみせる。何年かかっても」



詩月の瞳から、涙が溢れ頬に伝った。